「うちは従業員50人未満だから、産業医もストレスチェックも関係ない」——そう思っていませんか。
たしかに産業医の選任義務は50人からです。しかし、会社の規模に関係なく適用される健康管理の義務は、実はたくさんあります。
本記事では、従業員50人未満の会社に適用される義務の全体像と、今やるべきことをチェックリスト形式で産業医が整理します。
「50人未満なら何もしなくていい」は誤解です
労働安全衛生法の義務には、「事業場の規模で発生するもの」と「規模に関係なく全事業場に適用されるもの」の2種類があります。
50人未満の会社が免除されているのは前者(産業医の選任・衛生委員会の設置など)だけです。後者を怠ると、規模に関係なく法令違反となり、従業員に健康被害が生じた場合は安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。
産業医を選任するほどではなくても、医師に相談できる体制をつくる方法として顧問医サービスがあります。産業医との違いは「顧問医と産業医の違い」で解説しています。
会社の規模に関係なくある義務一覧
従業員が1人でもいれば適用される主な義務は次のとおりです。
| 雇入時の健康診断 | 常時使用する労働者を雇い入れるときに実施(省略できる場合あり)。費用は会社負担 |
|---|---|
| 定期健康診断 | 常時使用する労働者に年1回実施。週の労働時間が正社員の4分の3以上のパート・アルバイトも対象 |
| 健診結果への対応 | 異常所見のある労働者について、3か月以内に医師から意見を聴き、必要な就業上の措置を行う |
| 長時間労働者への面接指導 | 時間外・休日労働が月80時間超+疲労蓄積+本人申出で、医師による面接指導を実施する義務 |
| 労働時間の状況の把握 | タイムカード・PCログ等の客観的な方法で全労働者の労働時間を把握する |
| 雇入れ時の安全衛生教育 | 雇い入れ・作業内容変更のときに、業務に関する安全衛生教育を実施する |
| 労働者の意見を聴く機会 | 安全・衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設ける(衛生委員会の簡易版のイメージ) |
特に見落とされやすいのが健診「後」の対応と長時間労働者への面接指導です。どちらも「対応してくれる医師」が必要になるため、産業医のいない50人未満の会社では体制の穴になりがちです。面接指導の基準は「長時間労働者への医師の面接指導」で詳しく解説しています。
従業員10人以上なら「衛生推進者」の選任が必要
常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、衛生推進者(建設業・製造業・運送業など一定の業種では安全衛生推進者)の選任が義務です。
選任すべき事由が発生した日から14日以内に、一定の実務経験を持つ人か養成講習の修了者などから選任し、氏名を作業場の見やすい箇所に掲示するなどして周知します。労働基準監督署への報告は不要です。
衛生推進者は「社内の健康管理の窓口役」です。健診の受診管理・職場の環境チェック・相談の一次受付など、外部の医師と連携する際のハブとしても機能します。総務担当者が講習を受けて兼任するケースが多いです。
2028年4月からはストレスチェックも義務に
これまで50人未満の事業場は努力義務だったストレスチェックが、2028年4月1日から全事業場で義務化されます。初回実施の期限は2029年3月31日です。
体制づくりには時間がかかるため、2027年度中に準備の目処をつけておくのが安全です。
- 施行日・期限・準備スケジュール →「ストレスチェック義務化はいつから?」
- 実施手順とつまずきポイント →「50人未満の会社のストレスチェックのやり方」
- 高ストレス者が出たときの対応 →「高ストレス者の面接指導の流れ」
50人以上になると増える義務——成長企業は先回りを
従業員規模が大きくなるほど、メンタルヘルス不調による長期休業・退職は「起きるかもしれないこと」から「実際に起きること」に変わっていきます。厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所の割合は、10〜29人で5.7%、30〜49人で14.4%、50〜99人では33.1%と規模に応じて急増します。

従業員が50人(事業場単位・パート含む)に達すると、次の義務が一気に発生します。
- 産業医の選任(14日以内・労働基準監督署へ報告)
- 衛生管理者の選任(14日以内・国家資格者から)
- 衛生委員会の設置(毎月1回以上開催。立ち上げ方は「衛生委員会の立ち上げ方」参照)
- 定期健康診断の結果報告書の労基署への提出
採用が順調な会社ほど、50人の壁は突然やってきます。45人を超えたあたりから準備を始めると、慌てずに移行できます。
産業医をこれから探す場合は「産業医の探し方5つの方法」、選任後に交代を検討する場合は「産業医の変更方法」を参考にしてください。
今やるべきことチェックリスト
自社の状況を確認してみてください。チェックが付かない項目が、これから手を付けるべき課題です。
- 全従業員(対象パート含む)が年1回の定期健診を受けている
- 健診で異常所見が出た従業員について、医師から意見を聴く体制がある
- 労働時間を客観的な方法で把握し、月80時間超を確認できる仕組みがある
- 長時間労働者・メンタル不調者が出たときに相談できる医師のあてがある
- 従業員10人以上の場合、衛生推進者を選任・掲示している
- 2028年のストレスチェック義務化に向けた方針を決めている
こうした義務がなぜ会社の規模で線引きされているのか、制度の背景は「産業医とは|役割・仕事内容・法律上の位置づけ」の後半(産業医制度の歴史)で解説しています。
まとめ
- 50人未満でも、健康診断・健診後の医師意見聴取・長時間労働者への面接指導などの義務は全事業場に適用される
- 10人以上なら衛生推進者の選任・周知が必要
- 2028年4月からはストレスチェックも義務化。準備は2027年度中に
- 共通のボトルネックは「対応してくれる医師の確保」。50人が近づいたら産業医選任の準備も
健康管理の義務は「50人になってから考えるもの」ではありません。小さいうちに仕組みを整えた会社ほど、成長後の移行もスムーズです。
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