長時間労働者への医師の面接指導|基準は月80時間・会社がやるべきことを産業医が解説

「残業が月80時間を超えたら医師の面接が必要と聞いたが、具体的に何をすればいいのか」——労務担当の方からよくいただく質問です。

本記事では、長時間労働者への医師による面接指導の基準と、会社がやるべきことを産業医が整理します。

面接指導の基準——月80時間超+疲労の蓄積+本人の申出

労働安全衛生法第66条の8により、次の条件を満たす労働者から申出があった場合、会社は医師による面接指導を行う義務があります。

  • 時間外・休日労働時間が1か月あたり80時間を超えている
  • 疲労の蓄積が認められる
  • 本人からの申出がある

月80時間は、脳・心臓疾患(過労死)との関連が強まるとされる「過労死ライン」を踏まえた基準です。働き方改革関連法により、2019年4月から基準が月100時間から80時間に引き下げられました。

もっとも、実態は十分とは言えません。厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間に時間外・休日労働が月80時間を超えた月があった労働者は1.5%。そのうち該当するすべての月で医師による面接指導を受けた人は12.6%にとどまり、79.5%は面接指導を受けていませんでした。制度はあっても、実際に医師につながっていないケースが大半です。

月80時間超の時間外・休日労働をした労働者のうち、医師による面接指導をすべての月で受けた人は12.6%、一部の月は8.0%、受けなかった人は79.5%

対象者ごとの基準一覧

働き方によって基準が異なる点に注意してください。

一般の労働者 時間外・休日労働が月80時間超+疲労の蓄積+本人の申出で実施義務
研究開発業務の従事者 時間外・休日労働が月100時間超で、申出がなくても実施義務(罰則あり)。80時間超は一般労働者と同じ扱い
高度プロフェッショナル制度の対象者 健康管理時間(事業場内にいた時間+事業場外の労働時間)のうち週40時間を超えた部分が月100時間超で、申出がなくても実施義務(罰則あり)

基準に満たない場合でも、事業場で定めた基準(例: 月45時間超)に該当する労働者に面接指導や保健指導を行うことが努力義務として推奨されています。80時間を超えてから慌てるのではなく、45〜60時間の段階から目を配る運用が理想です。

会社がやるべきこと——労働時間の把握と通知

面接指導の前提として、会社には次の義務があります。

① 労働時間の状況の把握 タイムカード・PCのログなど客観的な方法で全労働者の労働時間を把握する(管理監督者や裁量労働制の対象者も含む)
② 月1回以上の算定 時間外・休日労働時間を毎月1回以上、一定の期日を定めて算定する
③ 本人への通知 月80時間を超えた労働者に対し、超えた時間に関する情報を速やかに通知する(申出を促す意味を持つ)

「そもそも労働時間を正確に把握できていない」という会社は、面接指導以前にここから整える必要があります。

面接指導の実施状況は、衛生委員会でも定期的に確認される議題です。立ち上げ方は「衛生委員会の立ち上げ方」で解説しています。

面接指導の流れと事後対応

申出後の流れは、高ストレス者への面接指導とほぼ同じです。

  • 本人の申出は、時間の算定期日からおおむね1か月以内
  • 会社は申出から遅滞なく(おおむね1か月以内に)医師による面接指導を実施
  • 面接指導の後、遅滞なく医師から就業上の措置に関する意見を聴く
  • 必要に応じて労働時間の短縮・作業転換などの措置を実施し、記録を5年間保存

面接指導で医師が確認する内容や、申出しやすい環境づくりのポイントは「高ストレス者の面接指導の流れ」も参考になります(確認事項の枠組みは共通です)。

従業員50人未満の会社にも適用されます

見落とされがちですが、長時間労働者への面接指導の義務は事業場の規模を問わず適用されます。産業医の選任義務がない50人未満の会社も例外ではありません。

つまり50人未満の会社は、「対応してくれる医師のあてがないのに、義務だけはある」という状態になりがちです。地域産業保健センターの無料サービスを利用するか、継続的に相談できる医師を確保しておく必要があります。

50人未満の会社に適用される健康管理義務の全体像は「従業員50人未満の会社の健康管理は何をすべきか」にまとめています。

2028年4月からは、ストレスチェックについても50人未満の会社が対象になります。詳しくは「ストレスチェック義務化はいつから?」で解説しています。

まとめ

  • 基準は月80時間超の時間外・休日労働+疲労の蓄積+本人の申出(研究開発・高プロは月100時間超で申出不要の義務)
  • 会社は客観的な方法で労働時間を把握し、80時間超の労働者に速やかに通知する
  • 申出からおおむね1か月以内に面接指導を実施し、医師の意見を聴いて措置につなげる
  • 50人未満の会社にも適用される。面接指導に対応できる医師の確保が課題

長時間労働への対応は、過労死・労災という最悪の事態を防ぐための仕組みです。月80時間の通知が来てから慌てないよう、時間把握と医師の確保を先に整えておきましょう。

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代表医師 金 仁星

この記事の執筆者

金 仁星(キム・インソン)

医師・産業医/仁星会産業医事務所 代表

大阪大学医学部卒業。兵庫県立西宮病院での臨床研修を経て産業医資格を取得(産業医科大学 産業医学基本講座修了・厚生労働省認定 面接指導実施医師)。現在は複数企業の嘱託産業医として、従業員の健康管理・メンタルヘルス対策・ストレスチェックの実務にあたっている。